だまされた話。



“それ”は彼の留守にやってくる。
年に何回とあるわけでないが、泊まりがけの出張、帰省時、必ずやってくるのだ。
それは今の住まいに引っ越す前のことだった。
オレンジ色のあたたかい日差しが入るリビングで、飼い猫のむーさんと一緒にうとうとしていた土曜日の午後のこと。
この日、同居しているまこさんは友達の写真展を観に行っていて留守でした。
帰ってくるのは夜の予定だしとのんびりソファで横になっていたところに
ガチャガチャと玄関の鍵を開ける音。
あれ?と思って、起き上がると、「ただいま~」とまこさんがリビングにはいってきました。
「おかえり~早かったね」たいして気にもとめず、寝室へ着替えに行ったまこさんに声をかける。
「夕飯どうする?」今日は食べてくるって言ってたので何も用意してないんだよな~と寝室のドアを開けた私なのですが・・・
「あれ・・・」
いない、そんな広い部屋でもなく、隠れる場所もないのにまこさんがいませんでした。
念のため、手前のベッドの向こう側も覗きましたが、倒れているわけもなく。。。
背筋にぞわ~と寒気が。
あわてて寝室のドアを閉めて、振り返り、飼い猫のむーさんを探します。
そういえば、玄関があくと一目散に走って待ち構えるむーさんが行かなかった。
リビングを見渡しても姿が見えないので、焦りながら「むーむー」と呼びつつキャットタワーのベッドや椅子の下を覗き探す私。
いつもなら呼んだらでてくるのに、その時に限って何の応答もなし。
ようやく、台所の隅で丸まっていたむーさんを発見。
抱きかかえてリビングへ戻り、まだ明るいけれど、電気をつけてソファへ。
どうしよう。。。まこさんへメールしようか。でも心配するよな。。。
不思議とまこさんに何かがあったとは思えなかったので、とりあえずそのまま帰宅を待つことに。
怖くて、トイレにもいけないし、お風呂も入れないし、キッチンに立つのもできず。いつもよりテレビの音量を大きくしてとにかくまこさんを待つ。
夜半、まこさんが無事帰ってきたので、コトの顛末を話して、ようやく落ち着いたのでした。
このときは完全に”それ”に騙された。油断してたぜ~なんて思っていたのですが、
騙されなかったとして「にせもの~」と言ったらどうなっていたのかしらん。
それはそれで怖いんですけどね。。。
見えない”それ”に遭遇することは、たま~にあったのだけど
怖いのでおかしいと思ったら目をつぶるとか、鼻歌しながらやりすごすことにしてました。
なので、せいぜい不穏な音を聞いたり、触られたりした程度ですんでいたのに。。。
こんなハッキリ、不思議でこわいことはこの時が初めて。
いやはや、今思い出しても怖かった。気づかない事がいいこともあるのよね。
※このときはもかさんが来るまえでむーさんも心細かったみたい。今は何があってもおねーさんよろしく、どっしりかまえております。